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漢方がん治療とは
~どうして漢方や糖質制限ががんに効くの?~

監修:医療法人 千里中央駅前クリニック 有光潤介 (元・大阪大学 漢方医学寄附講座 助教)

 
 はじめに   

 漢方には免疫力を高める作用があることから、がんの治療に有効であることが数多くの研究によって示されています。漢方医学では、個々の症状ではなく体全体のバランスを診て治療を行うため、バランスを崩している原因を改善する予防的な治療(未病に対する治療)を行うことが可能です。また、西洋医学的ながん治療に漢方がん治療を組み合わせることによって、がんの進行の抑制だけでなく、再発予防や、抗がん剤や放射線治療による副作用の緩和など、患者さんのQOL向上につなげることができます。

 以下に、漢方がん治療とよく用いられる漢方薬を含めがん治療の実際と、最近のがんの食事療法として注目されている「糖質制限高脂肪食」の効果についてご紹介します。





 がん治療の実際      

 がんとは、遺伝子の変異によって勝手に増殖を続けるようになった異常な細胞のことです。無治療のまま放置すると、周りの組織や臓器に浸潤したり、体の他の臓器に転移したりすることがあります。また、重要な栄養素を奪い、体を衰弱させることもあります。

 人の体は約60億個の細胞からできており、一定のルールの下で細胞分裂をして古い細胞と新しい細胞の入れ替えをおこなっています。その過程において、何らかの原因で遺伝子が変異した異常な細胞(がんのもと)が毎日数千個発生しています。「免疫」を担当する白血球などによって、そのがんのほとんどは未然に体内から駆除するような仕組みとなっています。しかしながら、がんに対抗するための免疫力は、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどの様々な原因によって心身に負担がかかると、バランスが崩れて低下してしまいます。

 現在、がんの治療方法は、「外科的治療(手術)」、「薬物療法(抗がん剤)」、「放射線治療」が主に実施されていますが、「薬物療法(抗がん剤)」と「放射線治療」は、がん細胞だけでなく正常な細胞(例えば、造血細胞、口内粘膜、消化管粘膜など)にも作用します。その結果、嘔気、白血球の減少などの副作用が多く引き起こされ、重篤な感染症などが惹起されることで、抗がん剤投与や放射線治療が継続できなくなってしまいます。このがん治療は継続的に行うことによって効果が期待されるため、がんの患者さんはある程度の期間、副作用に耐え続けなければならず、継続的に治療を行うには、心身ともに良好な状態を保つことが必要です。

 漢方がん治療は、患者さんを漢方的な視点で診察し、患者さんの体質・症状にあった漢方薬を用いて、低下した免疫力を上げ、がんの発生予防とがんの進行を抑制することを目的としています。また、抗がん剤による食欲不振や嘔気などの副作用の症状を和らげることが期待でき、それによって本来の抗がん剤治療や放射線治療が継続できるようになります。




 漢方がん治療と用いられる漢方薬の一例    

 免疫細胞は、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどの様々な原因によってその働きが低下します。特に、がんに対する免疫で重要なNK細胞やTh1細胞(ヘルパーT細胞の中でも特にがんを攻撃する細胞性免疫の働きを促進する)はその割合が減少してしまいます。そこで漢方では、細胞性免疫を活性化させるのに有効な生薬(人参、黄耆など)で構成される以下のような補剤(生命エネルギーや体内に蓄えられた栄養などを補う薬)を用いてがんの発生(再発)予防・進行を抑制します。また、漢方薬を使って、がん治療による副作用を軽減させ、抗がん剤治療や放射線治療によって低下した免疫力を回復することで感染症の予防を行うことも可能です。


 ■補中益気湯

 構成生薬:人参、朮、当帰、陳皮、大棗、柴胡、甘草、生姜、升麻
 ・・・虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、寝汗、感冒などの改善に用いられています。

 ■人参養栄湯

 構成生薬:人参、当帰、芍薬、地黄、朮、茯苓、桂枝、黄耆、陳皮、遠志、五味子、甘草
 ・・・病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血などの改善に用いられています。

 ■十全大補湯

 構成生薬:人参、黄耆、朮、茯苓、当帰、芍薬、地黄、川芎、桂枝、甘草
 ・・・全身の気や血液循環を促進し、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷えの改善に用いられています。

 これらの漢方薬には、ヘルパーT細胞の機能を正常化させ、免疫機能低下の防止に効果や抗がん剤や放射線治療による骨髄における造血機能障害や免疫抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)を改善する効果など、がんの発生や転移・増殖を予防する効果が期待されています。また、がん治療による全身倦怠感の改善や胃腸の調子を良くする効果も期待されています。


 ■六君子湯

 
構成生薬:人参、朮、茯苓、半夏、陳皮、大棗、甘草、生姜
 ・・・胃炎、胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐症状の改善に用いられています

 六君子湯は上記のように胃腸の調子を整える目的で用いられる漢方薬の代表ですが、食欲増進ホルモンの「グレリン」の分泌を高めることから、抗がん剤治療の副作用である嘔気、食欲不振の改善にも効果があると言われています。




 糖質制限食について        

 このような漢方がん治療が実践されている一方で、今、がんに対する栄養療法のひとつである「糖質制限高脂肪食」が注目されています。
 
 


<エサのカロリー比率>
 

通常食

糖質制限食

糖質

55.2%

8.0%

タンパク質

23.2%

69.4%

脂肪

21.6%

22.6%

Victor W.Ho,A low carbohydrate, high protein diet slows tumor growth and prevents cancer initiation,Cancer Res 71:4484-4493, 2011


 近年、アメリカやドイツの研究グループより「糖質制限高脂肪食」が、がんの増殖速度を遅らせる効果が期待できるといった研究報告が発表されています。
 マウスにがん細胞を移植し、「糖質制限高脂肪食」のみを与えた場合と「非糖質制限高脂肪食」を与えた場合に分けてマウスを飼育した場合のがんの増殖速度を比較した研究が2011年に行われました。この研究において「糖質制限高脂肪食」のみを与えて飼育したマウスの方が「非糖質制限高脂肪食」を与えて飼育したマウスより、がん細胞の増大速度が遅くなることが明らかとなり(上グラフ参照)、また、糖質量を制限すればするほど腫瘍の抑制効果が大きくなるといった結果が示されました。




 「糖質制限高脂肪食」は「糖質摂取を抑えること」と、「良質な脂肪を摂ること(ケトン体を多く生成すること)」が重要とされています。現在、がん細胞のエネルギー源はブドウ糖のみであるということが、様々な研究からわかっています。糖質の供給を減らすことが出来れば、エネルギー産出や細胞分裂のための細胞成分を構成できないため、がんの縮小効果を高められると考えられます。

 「糖質制限高脂肪食」はこのエネルギー源であるブドウ糖(糖質)の摂取を制限することで、がん細胞を兵糧攻めにすることが出来ます。また、良質な脂肪(中鎖脂肪酸やオメガ3脂肪酸など)や脂肪酸から作られる「ケトン体」という物質は、体内の糖質が不足した際に糖の代わりにがん以外の正常な細胞のエネルギー源となります。近年このケトン体自体にもがんや悪性腫瘍などの増殖を妨げる働きがあることが実験で証明されています。

 つまり、「糖質制限高脂肪食」は、糖質の摂取を控えることで、がんのエネルギー源を断つだけではなく、積極的にケトン体を増やして、がんの発生(再発)と成長・増殖を抑制する作用が期待できます。もちろん、「糖質制限高脂肪食」の実践のみでがんを完治させることはできませんが、がんの進行を遅らせる効果はさまざまな研究において確認されており、がん治療の新しい食事療法として注目されています。



 
 参考文献
 
朝日新聞社,2014年,「正しく付き合う漢方2014 その不調、漢方で解決」,218
川喜多卓也,2008年,「漢方薬の免疫薬理作用-慢性疾患の改善作用の主要機序として-」,日薬理誌,132
旭川医科大学准教授の河野透氏,日経メディカル,「漢方薬を駆使したがん治療の有害事象の緩和
自治医科大学産婦人科,鈴木光明他,「卵巣癌化学療法に伴う血小板減少に対する人参養栄湯の効果」
徳島大学医療技術短期大学部 徳島大学医学部 竹川佳宏 原田雅史,「放射線治療に伴なう造血機能障害に対する人参養栄湯の臨床的検討」
J.Gastroenterol.39:1202-1204,2004
Jpn,J.Cancer Res.,87:1039-1044,1996
Victor W.Ho,A low carbohydrate, high protein diet slows tumor growth and prevents cancer initiation,Cancer Res 71:4484-4493, 2011
Low-Carbohydrate Diets and Prostate Cancer: How Low Is ''Low Enough''?Cancer Prev Res 3:1124-1131, 2010




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